菊谷武
日本歯科大学教授
口腔リハビリテーション多摩クリニック院長

食べるを支え、食べられないを支える

「食べることは生きること」という言葉をよく耳にします。なぜならば、食べないことは死を意味することだからです。ただし、この「生きる」という言葉が、単に生物学的な生命を表しているだけではなく、その人の人生であったりや、生活であったりするなどの意味を含んでいる言葉であることは、言うまでもありません。だからこそ、どんな状況になっても、食べることはその人間の尊厳を守り、その人を取り巻く人すべて人の喜びにつながるのです。

残念ながら、年を重ねるとあらゆる機能が徐々に低下していき、終末期を迎えます。今日より明日、今月より来月、今年より来年、この傾きのなかで、できることが少なくなっていきます。すなわち、徐々に食べられなくなることは、ある意味自然な流れであるともいえます。私たちが、人生の最終段階において食べる支援をするときは、この「傾き」に対する考慮が必要となってきます。

神様は、人間の命を50歳までと見積もり設計したと言われています。それ以降の人生は、年を重ねるに伴って変化する機能を受け入れながら、さまざまな工夫をすることで、その生涯を過ごしているとも言えます。どんな状況にあっても食には喜びがあり、楽しみがあると思っています。「食べるを支える、食べられないを支える」。

食べる力を支えるということは、食べる力を知り、工夫することから始まるのです。







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