繁田雅弘
東京慈恵会医科大学精神神経学教室主任教授
日本認知症ケア学会理事長

誰と食べたかったか? 美味しかったか?

認知症高齢者の診療に従事するようになってから30年以上が過ぎた。食に関しては医師として次の事項が重要と考えている。「歯は何本残っているか?」「どんな姿勢で食事を摂るか?」「1日の食事回数は2回? それとも3回?」「2回でも十分なカロリーが摂れているか?」「栄養素の偏りはないか?」「水分は足りているか?」「誤嚥の危険が高まっていないか?」などである。これらをおろそかにしてはいけないが、いずれの問いも家族や周囲の者に尋ねればわかるものである。

最近はそれらの問いよりも本人への質問を大切にしている自分に気づいた。食を患者の生活活動としてではなく、自分事として考えるようになったためであろう。「食べなければいけないという義務感だけでなく、食べたいという気持ちを持てたか?」「好きなメニューはどれだったか?」「嫌いなメニューについて尋ねてくれた人はいたか?」「食事を終えて達成感や満足感はあるか?」「もう一度食べたいメニューはあったか?」「煮物ではニンジンの歯触りを感じられたか?」「それを食べてよみがえった思い出があったのではないか?」「本当は誰と食べたかったか?」、そして「美味しかったか?」







Kuchino Kenkoto Taberu Chikarawo Sasaerukai