辻哲夫
東京大学高齢社会総合研究機構
元・厚生労働省事務次官

食べることの大切さを考える

今から30数年前、私は厚生省(当時)の老人福祉課長をしておりましたが、その頃は、高齢者が寝たきりになることは自然の成り行きだと思われており、ようやく「寝たきり予防」という考え方が注目され始めたところでした。

そんな中で、高齢者と食の関係で強く私の心に刻まれた重い話があります。「一人暮らしの高齢者が食事の手抜きをし始めたらたちまちに弱り、施設入所につながっていく。高齢者福祉の原点は、きちんとした食事をしてもらうことだ」ということを地方の多くの現場の職員の方々から伺ったのです。もう一つは、「寝たきり老人」をめぐるテレビのドキュメンタリー番組で、寝たきりのお年寄りが、「母ちゃんが作ってくれるご飯が美味しい。これがある限りは生きていたい」と語っておられたことです。

当時はそのことに着目した政策にまでたどり着けませんでしたが、超高齢化の進行している今は、しっかりした食事をとり続けることは高齢期のフレイル予防の重要な入口です。また、たとえ高齢で体が弱っても、食べる喜びを持つことは生きがいでありQOL実現の基本的要素であるということが明確になっており、これらのことに皆でどう取り組むかが急務と言えます。

その取り組みの共通の原点は食べる力と食べる喜びとそれをもたらすお口の健康です。このことはすべての皆様方の幸せの1丁目1番地であるという理解が広く浸透することを切に願います。







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